
陰膳:故人を偲ぶ心温まる日本の習わし
旅に出る人の無事を願って用意される陰膳は、古くから日本で大切にされてきた伝統的な風習です。かつては、神社仏閣への参詣や、遠い土地での仕事を求める出稼ぎなど、長い道のりを行く家族の安全を願い、留守の間も毎日欠かさず食事を供えることで、その想いを形にしていました。食膳の内容は、家族が普段口にするものと同じものを用意するのが一般的でした。いつも家族が食事をとっていた場所に膳を設けることで、まるでその人がそこにいるかのように感じ、また、床の間など家の中でも特別な意味を持つ場所に供えることもありました。旅の安全を願う気持ちに加えて、お正月や誕生日には、その人が好む特別な料理を添えるなど、家族の無事を願う気持ちと、共に過ごせない寂しさ、そして無事の帰りを待つ温かい想いが込められていました。