葬儀と清め塩：その意味と作法

葬儀と清め塩：その意味と作法

清め塩の由来

古来より日本では、暮らしの中に様々な場面で塩が使われてきました。その中でも、「清め塩」は、神道における死生観と深く結びついた風習と言えるでしょう。

神道では、人の死は穢れ（けがれ）と捉えられてきました。穢れとは、神聖な場所や儀式を汚してしまう、目に見えない霊的な汚れのようなものです。この穢れを祓い清めるために、古くから塩が使われてきました。

塩には、強い浄化作用があると信じられてきました。海水から作られる塩は、太陽の光と熱を浴びて結晶化し、その過程で不純物が取り除かれると考えられていたからです。

清め塩は、葬儀の際に、故人やその遺品にふりかけたり、参列者が身を清めるために使ったりします。また、墓参りの際にも、墓石に塩を供えたり、手を清めるために使ったりします。

力士が土俵に入る際に塩をまくのも、神道の影響を受けた風習です。土俵は神聖な場所とされており、力士は塩を使って土俵を清め、邪気を祓うことで、安全な試合を祈願しているのです。

このように、清め塩は、単なる迷信ではなく、古来より日本人が大切にしてきた死生観や宗教観を反映した、重要な文化的慣習と言えるでしょう。

気枯れと清め塩

日本では古くから、目には見えないけれど確かに存在するエネルギーのようなものが、あらゆるものに宿ると考えられてきました。このエネルギーは、時に「気」とも呼ばれ、私たち人間もまた、常にこの「気」の影響を受けて生きています。

ところで、私たちが日々生活していく中で、知らず知らずのうちに心身に不調をきたす「気枯れ」というものが溜まっていくと言われています。「気枯れ」は、人が亡くなる時にも発生すると考えられており、死は穢れ、つまり「気枯れ」を発生させるものとして捉えられてきました。

「気枯れ」は、放っておくと心身に悪影響を及ぼし、生気を衰えさせてしまうと言われています。そこで、この「気枯れ」を祓い清めるために用いられるのが、清め塩なのです。

葬儀や通夜に参列した人が、式場を出る際に清め塩を手渡されるのは、故人の死に触れたことで、参列者に「気枯れ」が付着したと考えられているからです。少量の塩を体に振りかけることで、この「気枯れ」を祓い落とし、自宅に持ち帰らないようにするという意味が込められています。

古くから伝わる清め塩の習慣は、目には見えない「気」の力を用いて、私たち自身の心身を清め、健やかに保つための知恵と言えるでしょう。

仏教における清め塩

– 仏教における清め塩

日本では古来より、死は穢れ（けがれ）をもたらすと考えられてきました。そのため、葬儀の後に塩で身を清める習慣が根付いています。しかし、仏教では死に対する考え方が異なり、必ずしも清め塩を必要としない場合があります。

仏教では、死は穢れではなく、輪廻転生の中の一つの通過点と捉えられています。人は死後も生まれ変わりを繰り返し、魂は永遠に旅を続けると考えられているのです。

特に、浄土真宗のように「あの世」での平等性を説く宗派では、死を穢れと見なす考え方はありません。そのため、葬儀で清め塩を用いることはほとんどありません。

しかし、近年では仏教式の葬儀でも、慣習として清め塩が用いられるケースが増えています。これは、神道の影響や、遺族が故人との別れを惜しみ、少しでも安らかな気持ちで送り出したいと願う気持ちからきていると考えられます。

重要なのは、それぞれの宗教や宗派の教え、そして遺族の気持ちを尊重することです。清め塩を使うか否か、迷った場合は、寺院の僧侶や葬儀社に相談してみるのも良いでしょう。

現代における清め塩の意義

近年、仏教の葬儀でも清め塩を見かけることが増えました。これは、古くから伝わる神道の影響や、清め塩によって心を新たにしたいと願う人が増えているためと考えられます。

古来より日本では、神道と仏教は密接に結びついてきました。そのため、仏教の儀式である葬儀においても、神道の儀式である清め塩が取り入れられることがあります。

また、現代社会においては、葬儀は故人との別れを惜しみ、遺族が新たな一歩を踏み出すための大切な儀式となっています。清め塩を用いることで、葬儀という厳粛な場において、心を清め、故人を偲び、そして前向きな気持ちで未来へと進んでいくことができるという心理的な効果も期待できます。

しかし、清め塩はあくまでも慣習の一つであり、必ずしも必要なものではありません。浄土真宗のように古くから清め塩を用いない宗派もあれば、最近では他の宗派でも、遺族の意向を尊重し、清め塩を用意しない葬儀も増えています。

大切なことは、形式にとらわれすぎることなく、故人への想いを大切にし、それぞれにとって心に残る葬儀を行うことです。

清め塩の使い方と作法

葬儀や法事など、悲しいことがあった場所から自宅へ戻るとき、私たちは現世とあの世の境い目をまたぐと考えられています。
そのため、知らないうちに体に邪気がまとわりついてしまうことがあるのです。
そんな邪気を祓い、清らかな状態にしてくれるのが清め塩です。

清め塩は、葬儀の後にいただいた場合、帰宅したらすぐ、玄関に入る前に使いましょう。
家族が一緒に住んでいる場合は、玄関先で家族に塩を撒いてもらいます。
一人暮らしの場合は、自分で撒いても構いません。

清め塩の撒き方は、まず胸の前で塩をひとつまみ取り、左肩越しに後ろへ軽く投げます。
「自分の後ろには仏様がついていてくださる」という気持ちで行いましょう。
次に、同じように右肩越しに後ろへ投げます。
最後に、残った塩を足元に軽く撒きます。

塩を撒くときは、地面に落とすように優しく撒くのがポイントです。
勢いよく撒いたり、周りに飛び散らせたりしないように注意しましょう。